Nancy Harrow ナンシー・ハーロウ / Anything Goes
ナンシー・ハーロウのアルバムの冒頭は、ベースとヴォーカルのみではじまる。曲は「Anything Goes」。
そしてベースとデュエットするように歌い終える。
ベースというのは、なかなか表立って目立つことはない楽器だが、小編成のコンボの場合では、ベースが参加しているか、していないかで大きくサウンドが変わる。ベースの参加しているピアノ・トリオでは聞こえてくる大きなうねりのようなものが、ピアノ・デュオとなると目立たなくなる。
じゃあベースのフレーズがそれほど面白いかというと、そうでもない。ベースの持つ役割とは、音楽の下支えだという声もあるが、僕の意見では、ベースは音楽のまとめ役だ。目に見えない指揮者のような存在。参加しているメンバーの全体のノリを、巧みに一つにまとめて行く楽器だと思う。ごく最近になって、ベースがリズム楽器なのだという声に、まったくその通りだと思うようになった。
シンプルなベースの演奏に、ボーカルが乗る。それだけなのにナンシー・ハーロウの「Anything Goes」では、目に見えないコード感が感じられる。大きな黒板に大きな音のまとまりが書き込まれるような、聴き進むに連れて体の中にハーモニーが落とし込まれるような感じに。
ふちがみとみなとも、ベースとヴォーカルだけの男女デュオだ。
ベースとヴォーカルだけで、20年間ものあいだ音楽活動を続けてきたというから、スゴい。
シェルビー・フリントの「Cast Your Fate To The Wind」の冒頭も、ベースとヴォーカルだけ。なんという品のいい冒頭なのだろう。
もっともっとベースのことがわかりたいと思わされる音楽。そんな音楽と、もっともっと出会いたい。(大江田信)
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