The Allen Ward Trio / アレン・ワード・トリオ
なるべく懐かしいという気持ちと共に音楽を聴かないように、努めてきた。懐かしいという気持ちが生み出すものに、惹かれないようにしようと思った。どうせ、ろくなものはないと思ってきた。
懐かしものに近付かないようにして来たのは、手に入らないことを知っているクセに、無いものねだりしているようないやな甘えを感じるからか、それともいざホントーに懐かしいものと出会ったら取り乱すに違いないとわかっているからか、懐かしさをウリにするビジネスに嫌悪を感じるからか、実際に行ってみれば良いのに、テレビの昭和の映像などを見るだけで記憶の安物買いをしているためか、たぶんそのどれもが理由だろうと思う。
そろそろ、そんなことにこだわるのは止めて、懐かしいという物差しと一緒に音楽を考えてみようと思うことがある。
懐かしいという言葉が語る対象との距離感や、懐かしいとしながら対象に写し込むものなどを、いちどきちんと考えてみよう、懐かしさという気持ちを許してやろうと思った。
たまたま今日、用意していたレコードで言うなら、たぶんこれ。
それが面白いことに、数分は懐かしいと言う思いで聞いているのだが、しばらく聞きながらどんどんと音楽に潜り込み始めると、こんどは盛り込まれたアイデアに耳が行き、いつか懐かしいという感情を失うことになる。面白い音楽なのだ。永遠をはらんだ今があるような、そんな響きの音楽。
仕事柄、毎日のように半世紀以上も前の音楽を聞いているボクの中から、懐メロという言葉が消えて久しい。
懐かしさへの道のりは、遠いのだ。(大江田信)
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