Jan August ジャン・オーガスト / Latin Rhythms
「エル・クンバンチェロ」は、ラテンのスタンダードのひとつ。プエルトリコ生まれの音楽家、ラファエル・エルナンデスによる作品だ。
20代半ばで渡米したエルナンデスは、いくつかのバンド活動を経て、音楽出版社に楽曲を売る生活をしたのち、メキシコでクラシックを学び、乞われて祖国に戻った。
帰国したのが1947年、この曲が書かれたが1943年だというから、まだアメリカ、もしくはメキシコ滞在中に書かれた曲ということになる。
このクンバンチェロというのがどういう意味なのかを、少し調べた。
クンバはお酒を飲む杯のことで、クンバンチェロは、(酒を飲んで)大騒ぎをする人、お祭り騒ぎをしている人のこととらしい。
エル・クンバンチェロの「エル」は単数名詞につく冠詞だから、大騒ぎをしている一人の人を描いた歌ということになるはずだが、どうも曲調からは何十人もの人たちによるお祭り騒ぎの様子とも感じ取れる。
ラファエル・エルナンデスは、生涯で2000曲もの作品を書いた。プエルトリコの魂とも、プエルトリコの誇りとも讃えられる。
祖国にもどってプエルトリコ交響楽団の音楽監督の仕事をしながら、同時にプエルトリコのリトルリーグ団体のトップの仕事にも励んだ。
演奏しているジャン・オーガストは、ラテン・ナンバーを好んで取り上げたピアニストだ。ポール・ホワイトマンとファーディ・グローフェの元で働いたという前歴の持ち主で、クラシックに近い場所で仕事をしたのち、ニューヨークを拠点にポピュラー・ピアノをレパートリーとして活動した。
ラテンの一曲を巡る様々を調べていると、必ずと言っていいほど、国や地域、クラシックやポピュラーといったジャンルの違いなどを、大胆に大股で歩きながら踏み越えて生きた音楽家の姿と出会うことになる。なぜだか、そうなる。これが面白い。(大江田 信)
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