Jimmy Smith / Christmas Cookin’
クリスマスにアメリカを旅行したことがある。それはそれは、面白い経験をいくつもした。
そのひとつ。
クリスマスの当日、街は一面の雪模様だった。
通りは静まり返っている。
僕らはレコード店に向かって車を走らせていた。
目指す店は、年中無休を売りにしていて、しかも早朝9時に開店して、閉店は夜の24時。ひとまず行き先の目ぼしはあるからレコード探しはいいとして、おや、僕らの昼食はどうなるんだという声が車中で上がったのも無理も無い。ファースト・フード店が閉まり、モールの店が閉まり、通りには人の姿を誰ひとり見かけなかった。
ふと気付くと、小さなデリに灯りが点いていた。
サンドイッチでも買って、昼食を確保しようということになり、店に入った。初老の男性店主が、ポツンと店に立っていた。パン、ハム、サラダ、飲み物、スナックなどが手狭な店に並んでいる。それぞれに好みのサンドイッチを買い、飲み物を手に精算を済ませた。
どうやらユダヤ人の人が経営する店らしいねと会話を交わしながら店を出ようとすると、客がひとり入って来た。初老の男性だった。
思わず聞き耳を立てた。
グッド・モーニングとか、ハローとか声を交わすのかと思ったら、ふたりは「メリー・クリスマス」と声をかけ合った。
僕らは、思わず顔を見合わせた。
お客の彼は独り者なんだよとか、グッドモーニング代わりにメリー・クリスマスと言うこともあるんだね、などと話しながら今いちど車に乗り込み、僕らはレコード屋に向かった。
クリスマスだよ、レコード屋だって空っぽだよと、誰かに言われたような気がする。ところがさもありなん、昼も過ぎる頃からレコード屋は家族連れや恋人同士で結構な混雑になった。他に行く所も無い人たちは、僕らだけではなかった。
昼食は車の中に戻って取った。
夜になるとガソリンスタンドが開いていて、併設の簡単な売店でサンドイッチと飲み物を買ってから、モーテルに戻った。
それからどんなテレビ番組を見たのか、モーテルの様子がどうだったのかなど、覚えていない。
初老の男性同士がメリー・クリスマスと挨拶する街で唯一開いていたデリの様子、朝から晩までレコードを見ていた店の中の様子、そんなことを思い出す。もしかすると、これまでの人生で覚えている唯一のクリスマスの日の光景かもしれない。
ひとりぼっちのクリスマスには、どんなレコードが似合うのだろう。
例えばこんなジャケットを飾って、ジミー・スミスのオルガンを聴くのはどうだろう。こんなサンタさんが来てくれたら、思わず部屋のドアを開けて歓待しちゃうだろうなあ。それにして雪の中でジミーさん、寒く無いですか?(大江田信)
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