Nicky Hopkins ニッキー・ホプキンス / Tin Man Was A Dreamer

Hi-Fi-Record2011-02-01

90年代に
ソニーが音楽ファンにアンケートを募って
再発リクエスト上位10傑をCD化するという企画で
堂々とナンバー・ワンに輝いたのが
このアルバムだった。


それより遡ること数年前、
大学生だったぼくにとって
このアルバムは
高嶺の花の一枚だった。


当時
西新宿あたりのレコード屋に出向くと
たいてい一万円近くはしていたんじゃないかな。


内容の繊細さや美しさというより
ストーンズ人脈のレア盤ということで
語られることが多かったように思う。


70年代に日本で発売されたときの
「夢見る人」という邦題も印象的だったが
友人との間ではもっぱら「ティンマン」「ティンマン」と
呼び合うのが通称になっていた。


知らないひとが聞いたら
どこかのラーメン屋の名前かと思ったことだろう。


大学3年生ではじめて出かけたニューヨークにあった
リヴォルヴァー」という店の片隅で
このアルバムを見つけたときは
ひどく興奮した。


買付でアメリカに出向くようになった今と違って
当時はポータブル・プレイヤーみたいなものも持っていないから
手に入れてから帰国するまで
内容を想像しながらジャケだけを見て
悶々と過ごしたことを思い出す。


じゃあ
帰って来たら
すぐにこのレコードに針を落としたのかと思いきや
そうはいかなかった。


帰国直後に
そのとき付き合っていた彼女から
別れの電話をくらったからだった。


しばらくしてからようやくこのアルバムを聞いたが
のちにネオアコ好きやソフトロック好きにも再評価もされた
「ウェイティング・フォー・ザ・バンド」よりも
事実上のタイトル曲「ドリーマー」に心が動いた。


気持ちがほろ苦くなっていたからだろう。


素敵なアルバムだが
地味なアルバムでもある。
これを出してほしいと
みんなが夢見て待ち望んでいた時代が確かにあったのだ。(松永良平