Jack De Mello ジャック・ディ・メロ / Remembers Kui Lee

Hi-Fi-Record2011-02-05

ついこないだまでハワイに行っていた。


ツマ、義母、義弟と一緒の行動で
短い日程で行ける範囲は限られていたけれど、
それなりにゆっくりと観光を楽しんだ。


なかでも印象が深かったのは
ホノルル・アカデミー・オブ・アート
現地のひとには“アカデミー”と呼ばれるこの美術館、
とても落ち着いたたたずまいに
古代芸術からファインアートまで
ほどよく揃った居心地のいい空間だった。


ゴッホピカソゴーギャンなども
大作ではないが佳品を一点ずつ取り揃えているところに
つつましやかな誇りが感じられたし、
大好きな現代美術家アレクサンダー・カルダーが
男女をかたどったかわいらしい針金アートとか
センスの良い作品も収蔵していて
「やるな」と思わせられた。


独立したスペースをとって展示されている
近現代のハワイ美術は
やはり印象に残った。


アーマン・カヌーキアンという
聞き慣れないトルコ人画家の作品は
その一画で特別展示されていたものだった。


20世紀初頭のハワイに海軍兵として赴任し、
除隊後もハワイに居残って
4年間でとてつもなく印象的な絵画作品を描き残した。


代表的な大作である
レッド・セイルズ」と「ハワイアン・ボーイ・アンド・ガール」は
ハナ・マウイ・ホテルに長い間シンボルとして掲げられていたのだが、
このたび、この“アカデミー”への長期貸与が実現したのだそうだ。


なるほど
一目見たら忘れられなくなる絵だった。
ゴーギャンタヒチに赴いて描いた楽園絵画にも近いが、
もっと作風がモダンで独自で
うまく説明のつかない狂おしさがあって。


何故、活動が4年に限られているのかというと
彼は27歳で自殺をしてしまったからだ。


彼は
1915年、ときのオスマン帝国
アルメニア人に対してイスラム教徒が行ったとされる
数十万人とも数百万人とも言われる大虐殺事件の生き残りだった。


辛くも難を逃れてアメリカに移民し
その後、海軍に入隊し
ハワイに赴いて地上の楽園を見たのだ。


その早すぎる死について
虐殺のトラウマがあったのか
いろんな問題を抱えていたのか
そういうことはぼくにはよくわからない。


3枚のキャンバスを連ねて描いた
空を飛ぶフラミンゴの絵にも
心をえぐられた。


一枚のキャンバスが示す
あらかじめ決められた世界の大きさでは足りないほどの勢いで
彼はどこまでも飛んでしまいたいと祈ったのだ。


特別展といっても
遺した作品の少なさのせいもあって
カタログ的なものやポスターの類が用意されていなかったのが悔やまれた。


今年の4月まで
展示は続くそうだから
もし近々ハワイに行かれることがあれば
是非足を運んでみては。


ランチタイム限定営業の
中庭のカフェテリアも
よい感じでした。


理由は違うけど
やはり夭逝したハワイの天才SSWクイ・リーに捧げられた一枚を
今日は上にあげておいた。(松永良平