The Butch Thompson Trio / Live From St. Paul

Hi-Fi-Record2011-02-09

 当初は複数を在庫したこのアルバムも、ストックが少なくなって来た。
 またあの街に出向けば、手に入るのかもしれない。
 でも、もう行くことはないだろう、と思う。



 ミネソタ州ミネアポリス。そして対になっている隣街のセント・ポール。
 この街で活動するジャズ・ピアニストのアルバムだ。
 パブリック・ラジオで放送されている番組、プレイーリー・ホームコンパニオンの常連。このアルバムに入っているアナウンスは、番組の司会者で企画者のギャリソン・ケーラーの声だ。



 古いジャズ・ナンバーを、丁寧に演奏している。なんてことはない演奏で、さあ、俺たちのジャズを聴いてくれと肩に力が入って様子など、何もない。
 恐らく客席の聴衆たちの誰もが知っているような曲を、気取り無くさらっと演奏している。


 
 こういうジャズを聞くようになったのも、ミネアポリスの街を好きになったから。
 好きなレコード屋があることから街を好きになって、街の人たちの暮らしの一端が好きになって、そしてそこで奏でられている音楽を好きになった。



 たぶん今頃は、街中が雪に覆われているだろう。
 バス停でバスをミネソタ大学の学生たちは、耳元まで隠す帽子を被っていることだろう。
 数多い湖にも氷が貼っているに違いにない。夜になると吹雪で先を見通しにくい通りを、車はゆっくりと走っていることだろう。
 懐かしい気持ちで音楽を聴いている。



 ブッチ・トンプソンのピアノの響きが暖かい。
 トリオのメンバーのしゃがれ声のヴォーカルも、暖かい。
 それがあの寒い街では、一番の宝物なのだろう。



 ミネアポリスとセント・ポールは、陸の孤島のような場所だ。
 費用対効果が悪いと言ってしまえばそれまでだが、限られた時間の中でレコードを集めるには、向かない街になってきた。



 もう行くこともないだろうと、ぼんやり思いながらレコードを聴く。
 今は「Two Sleepy People」が流れている。
 音楽が街の風景を連れてくる。(大江田信)



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