The Butch Thompson Trio / Live From St. Paul
当初は複数を在庫したこのアルバムも、ストックが少なくなって来た。
またあの街に出向けば、手に入るのかもしれない。
でも、もう行くことはないだろう、と思う。
ミネソタ州ミネアポリス。そして対になっている隣街のセント・ポール。
この街で活動するジャズ・ピアニストのアルバムだ。
パブリック・ラジオで放送されている番組、プレイーリー・ホームコンパニオンの常連。このアルバムに入っているアナウンスは、番組の司会者で企画者のギャリソン・ケーラーの声だ。
古いジャズ・ナンバーを、丁寧に演奏している。なんてことはない演奏で、さあ、俺たちのジャズを聴いてくれと肩に力が入って様子など、何もない。
恐らく客席の聴衆たちの誰もが知っているような曲を、気取り無くさらっと演奏している。
こういうジャズを聞くようになったのも、ミネアポリスの街を好きになったから。
好きなレコード屋があることから街を好きになって、街の人たちの暮らしの一端が好きになって、そしてそこで奏でられている音楽を好きになった。
たぶん今頃は、街中が雪に覆われているだろう。
バス停でバスをミネソタ大学の学生たちは、耳元まで隠す帽子を被っていることだろう。
数多い湖にも氷が貼っているに違いにない。夜になると吹雪で先を見通しにくい通りを、車はゆっくりと走っていることだろう。
懐かしい気持ちで音楽を聴いている。
ブッチ・トンプソンのピアノの響きが暖かい。
トリオのメンバーのしゃがれ声のヴォーカルも、暖かい。
それがあの寒い街では、一番の宝物なのだろう。
ミネアポリスとセント・ポールは、陸の孤島のような場所だ。
費用対効果が悪いと言ってしまえばそれまでだが、限られた時間の中でレコードを集めるには、向かない街になってきた。
もう行くこともないだろうと、ぼんやり思いながらレコードを聴く。
今は「Two Sleepy People」が流れている。
音楽が街の風景を連れてくる。(大江田信)
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