Rod McKuen ロッド・マッケン / Pastorale

Hi-Fi-Record2011-03-15

 買い付けからの帰国便に乗る直前に、ゲート近くの売店でサンドイッチを買った。マイレージ獲得のため、ユナイテッド・エアラインに乗り続けて10余年。毎回々々、メニューは変われど同じ味覚の機内食に食傷した。


 ハムとチーズとトマトを挟んだベーグル・サンドを選ぶ。値段は税込みで9ドルほど。レジの女性にクレジット・カードを渡す。
 こうした少額の買い物でも、最近ではクレジット・カードが使える。サインもしなくていい。


 決済した後に、彼女はボクのカードをじっと見た。そして日本人と気付いたのだろう、こう言った。
 「日本に帰るの?」
  ぼくは「そう」と答える。
 「恐ろしい悲劇よね。家族は大丈夫だった?」
 「ああ、幸いなことに大丈夫だった。安全だった。」
 彼女はアジア人の顔をしていた。
 「どこの出身なの?」
 「私は中国。これまで日本に帰る人の中には、大変な人が何人もいたのよ。気を付けてね」

 
 つぶやくように言いながら、彼女の顔がひどく曇った。
 混雑する空港売店のレジでの会話だ。一分にも満たない短い時間。それでも、すべてが交わされた会話のようにボクには思えた。
 サンドイッチとカードを受け取る。彼女は、また仕事に戻った。


 今こうしてしてみると、彼女にお礼を言ったのかどうか、思い出せない。ぼくは、なんだかひどく胸が詰まっていたのだ。


 言葉に尽くせない不安やいらだちのなか、どんな音楽を聴くとほっとすることができるのだろうと思う。そもそもこういう時に、音楽が役に立つことができるのだろうかとも思う。
 そんなことに想いをとらわれながら耳を傾けているなか、 Make It With You と歌うロッド・マッケンの声に心が揺れた。(大江田信)