Brad Baker Chocolate Company / Hot Chocolate

Hi-Fi-Record2011-03-25

「松永さん、今日こんな買物してしまいました」


そう言いながら
彼がかばんから取り出したのは
なんと料理エプロンだった。


彼が言う”こんな”には
“こんなご時世に”という気分も含まれる。


3月14日に買付から帰国してから
ぼくだって
もうその言葉を何度使ったかわからない。
それでも社会にいいわけでもしているかのように
首をすくめつつも
自分の楽しみをどこかで求めている。


そんな風潮のなかで
無駄遣いを極力控えるというのも
最近の世間の気分のひとつだろう。


“この先”という表現が
いったいどれくらいまで先を示すのか
だれにもわからないという
もやもやっとした不安が
ぼくたちをつつんでしまっているのだ。


そんなご時世に
彼はエプロンを買った。
イタリアの国旗みたいな色使いの
いかにも料理する気分が弾みそうな
いいエプロンだった。


「料理しているときは
 いろんなことを忘れられるんですよ」


そんなことも彼は言った。
だから
無駄遣いに見えるかもしれないけれど
このエプロンは
彼にとっては必需品だったのだ。


「今夜は今日買ったレコードを聴きながら
 料理すると思いますよ」


音楽もまた
彼にとって料理をいろどる大事なアイテムなのだ。


ぼくたちの商売は
無駄ではないと思わせてくれる
今はこういう会話がありがたい。


このレコードは
彼が迷った末に
今日は買わずにおいたもの。
もちろん
買って帰ったレコードだって素敵なものだった。


あれ聴きながら
彼はいったい何を料理するつもりなんだろう。
それ聞いておけばよかった。(松永良平