アル・クーパー Al Kooper / Easy Does It

Hi-Fi-Record2011-04-26

大学生のころ
バイト先(ディ●クユ●オン)で先輩から熱心に薦められて
アル・クーパーの「Naked Songs」を聴いた。


レコードを店から借りて(当時は一日3枚まで許された)
家に帰ってカセットテープにダビングした。


ところが
どうしても良さがわからない。


なんかこう
さっぱりしたところのない
お洒落そうでいて抜けの悪い
のたくったようなアルバムだと
当時19歳のぼくは思ったのだ。


テープはほっぽったまま
しばらく時間だけが過ぎた。


翌年
青春18きっぷ
東京から九州まで帰った。


長旅になるので
何冊かの文庫本と
何本かのカセットと
カセットウォークマン
かばんのなかにはとりあえず入れていた。


とっかえひっかえ聴いているうちに
「Naked Songs」のテープを自分が選んでいたことに気がついた。


良さがわからないまでも
なんとなく捨て置けずにいたこの名作とやらを
長旅のなかでもう一度聴き直してみようと思ったのだろう。


場所はどこだったか忘れたが、
時間はよく覚えている。
夕暮れどきだった。


鈍行列車には
地元の子どもたちやおばさんたちが
乗ってきては降り
乗ってきては降り。


そんな景色を見ながら
一曲目の「ビー・ユアセルフ、ビー・リアル」を聴いたら
途端に意味も分からず涙腺が刺激され
ぐしゃぐしゃに泣いてしまったのだ。


ぼくの知らないその土地で
日常を繰り返しながら生きているひとたちが
若さという時間を他人とは違うように特別に暮らしたくて
毎日ああでもないこうでもないとあがいている自分よりも
はるかにたくましく思えて
どうしようもなく愛おしくなって
席を立って「ありがとう」と握手を求めたくなってしまった(もちろんしてませんが)。


その前段階として
ひとりっきりで
いろんなことを考えながら
まる一日以上電車に揺られ続けた、
そういう演出があったことは否めない。


だが
きっかけが
ださいなあと振り返ってしまう気恥ずかしいものであろうと、
そのときぼくは
アル・クーパーにつかまったのだ。


ひとたび
魅力を感じてしまったら
アル・クーパーがソロ・アルバムで見せる
才能の“のたうち”とでも言うべき作風が
たまらなく好きになってしまった。


この2枚組も
今も頻繁に聴きかえすとは言わないが
十分にのたうっている。(松永良平