Boston Pops ボストン・ポップス / Ship Of Fools

Hi-Fi-Record2011-05-09

昨日書いた
船旅行の話が思いがけず評判がよかったので
調子にのってつづきを書く。


フランスパン2本で
二泊三日の船の旅をやり過ごすつもりだった皮算用
初日にしてもろくも崩れ去った。


フランスパンってやつは
想像したよりも“食いで”がないし、
腹持ちもわるい。


しかもわるいことに
シケの海を避けるために船が徐行することになり
旅程は三泊を数えることになりそうだというアナウンスまで流れた。


どうしよう……。
あと半分も残ってないわ……、パン……。


そんなことを考えながら
休憩室でぼおっとしていたら
ひとりの青年に声をかけられた。


ぼくより結構歳上だろうか(当時ぼくは20歳)。


ひとり?
ええまあ。
どこまで?
西表まで。
おれは(沖縄)本島。
へえ。


そんな感じでたあいもない会話を交わす。
要はみんな退屈なのだ。


そのとき
その男性が手にしていた文庫本が目に止まった。
それは角川文庫版の
夢野久作ドグラマグラ」だった。


「それ、「ドグラマグラ」ですね」


高校時代に
日本の幻想文学にはまった友人から
無理矢理押し付けられるように渡されたその文庫本だったから
表紙を覚えていたのだ。


すると
彼の目つきがさっと変わった。
一瞬けわしくなって
すぐに明るく輝いた。


「ご、ご存じなんですか!」


急に敬語になったから
こっちもビックリした。


「いや〜、まさかこんなところで
 同好の士と会うなんてね。
 一杯飲みましょう! いけるでしょ?」


まいったな。
同好の士と言えるほどくわしくないんだけど……と
弁解しようとしたのだが
彼が自販機で
ぼくの分までビールを2缶買っている姿を目撃して
何も言えなくなってしまった。


いや、何も言わないことにしたのだ。


このひと、金持ってる!
しかもただでビールが飲める。
これは千載一遇のチャンス。
あわよくば、ツマミ(ぼくにとっては主食)にもありつけるかも。


そう判断したぼくは
その筋にくわしいふりをして
しばらくお話に付き合うことを決めたのだった。


さて、
この話
つづくでしょうか。


上に挙げたアルバムは
失礼なタイトルと思いつつ、
ぼくも含めて“船上の愚か者”ということで……。(松永良平