PIZZICATO ONE / 11のとても悲しい歌

Hi-Fi-Record2011-05-26

 外国からのお客様が見えた。男性3人と女性が1人。


 店内のスピーカーからは、昨日、発売されたばかりの小西康陽さんの最新作「11のとても悲しい歌」が流れていた。
 店内をそうっと静かに歩きながらレコードを眺めている彼ら。一人、熱心にレコードを探しているヒゲの若者に「ビル・エヴァンスは無いか?」と尋ねられる。なんということか、この「BILL EVANS」が聞き取れなくて、それ、何?と思わず尋ね返してしまった。



 10曲目の「もしもあの世に行けたら」が始まると、誰かが「おっ、SUIDE IS PAINLESS」だと言いながら、口ずさみはじめる。これ、いいね、COOL。そうだね、COOL。男性陣がそれとなくサビの歌詞を口ずさむ。


 誰かが、壁に掛けられたレコードに記されるバート・バカラックのサインを見つける。本物?と聴かれて、本物だよと答えると、彼は「I'M BURT BACHARACH」とバカラックの物まねをはじめた。



 4人はオーストラリアのメルボルンから来た友人同士の旅行者だった。熱心にレコードを探していた彼は、ピアニストという。おそらく4人とも、20代の後半くらいだろう。
 ピアニスト君は、レコード好き。レコードしか持っていないんだ、CDプレイヤーは持っていないんだよ、と笑いながら言う。



 CDの12曲目、「長くつらい登り道」になる頃には、彼らはそろそろ帰る準備を始めていた。誰かが、これもCOOLだねと言う。
 思わずぼくは4人を引き止めて、店内に流れている音楽は、ミスター・コニシの最新作なんだよと、説明をはじめる。昨日が発売日なんだと言いながらCDを見せているうちに、ピチカート・ファイヴのKONISHIか?と尋ねられる。そうだよ。ピアニスト君は、ああ、知っていると言いながら、横にいる友人に、ピチカート・ファイヴを知っているか?と尋ねる。ああ、少しとの答えが返ってくる。



 気がついてみると彼らは、小西さんの最新作の半分をハイファイの店頭で聴いた。随所でCOOLだねと、言葉を発していた。その彼らのさらっとした反応のトーンを、とても好ましく思った。どこかしらアルバムから放たれている重たさにのみ、ぼくの耳が奪われていたからだろう。彼らが店を出た後に、これで今日5回目となるプレイ・ボタンを押した。(大江田信)