Nina Simone ニーナ・シモン / To Love Somebody

Hi-Fi-Record2011-05-31

すでにメルマガやtwitterなどでご存じのかたも多いかもしれないが
先週まで買付に行っていた。


前回の買付では
帰国3日前に震災が起きて、
動揺と混乱のなか帰国をした。
忘れられない買付になった。


それ以来となる買付に行ったのだ。


いろんな問題は抱えつつも
状況としてはじりじりと沈静化しつつあるという判断で
アメリカに向かったのだが、
「おい、おまえら、アレをなんとかしろ!」とか
言われたりするのではないかという心配が
まったくなかったわけではない。


もちろん
そんなこと考えてばかりいたって
先に進まないんだから
行くしかないんだけど。


週末のレコード・ショーで
あるディーラーから結構な量を買ったついでに
世間話をしていたら
「ところで、どこから来たんだ?」と訊かれた。


ぎくり。
やっぱり。


「日本、東京から」


自白するような心境で
彼に伝えた。


「ふうん」と言ったきり
彼がなにか考えているふうだったので
思わずいらぬ付け足しをしてしまった。


「あなたたちが思うよりは落ち着いているよ」


ぼくの来た場所を知って
彼が不意に態度を変えるのではないかと思ったのだ。


しかし
それはぼくの杞憂だった。
彼はひと呼吸置いたあと
心底申し訳なさそうにこう言ったのだ。


「大変だったろうなあ」


海外のニュースの一部を引用して
「日本はこんなにわるく言われてます」とか
そういう日本のメディア記事を
ぼくは基本的にあまり信用しない。


海外の(ぼくの場合は、アメリカの)ひとたちが
どれほど自国以外のことに興味がないか
地肌で知っている実感があるからだ。


だから
逆に彼が言った「大変だったろうなあ」には
他意はなく、
深みこそないかもしれないが
本心としての思いやりを感じた。


よせばいいのに
「被災地のひとたちはがんばってるけど政治がバカで」なんて
ぼくは調子に乗って言ってしまった。
すると
彼はアッハッハと笑った。


「政治がマトモな国なんか世界のどこにあるんだよ!
 アメリカだっておんなじさ!」


だから
政治家よりもおまえたちが気を強く持て、と言われたようで
何気ないやりとりだけど
買付に来てよかったと
本当に心から思ったのだ。


例によって
文章と表題のアルバムに直接の関係はありません。(松永良平