Jimmie Rodgers ジミー・ロジャース / Troubled Times

Hi-Fi-Record2011-06-04

 かつてレコード会社に勤務していた頃のこと。
 レコードの宣伝をするために、サンプルのレコードを持ってラジオ局を廻っていたときに、ユニークな番組ディレクターと出会った。
 1980年代に入ったばかりの頃。その当時の多くのラジオ番組が、業界紙のオリジナル・コンフィデンスこと通称オリコンのチャートを参考に選曲されていた。オリコンのチャート上位にいる曲、チャートを急上昇している曲、今後にベスト10に入る勢いの曲が選曲の対象となった。
 レコード会社の宣伝マンとしては、ラジオでオンエアしてもらうことが至上命題だった。それが最も販売促進となる時代だった。


 彼は、オリコンのチャートは見ない、という。ホント?と聞くと、いや、もちろん見るよ。でもオリコンのチャートを見てたら、お客さんの聞きたい気持ちとずれちゃうんじゃないかと思うんだな、という。
 オリコンのチャートは、データ店と言われる全国の協力店の店頭販売状況を電話取材し、それらをまとめて発表される。取材から発表の間には、データの整理やデザイン、校正、印刷、そして出来上がった本の配送などの行程が入る。少なく見積もっても、この間に一週間近くの時間がかかる。このあたりのことに、彼は気がついていた。


 売れている枚数が電話取材されて、それらがまとめられたオリコン・チャートを見る間に、随分の時間があるだろ?と彼は言う。
 音楽を聴きたいと思っているラジオの聴取者に、その瞬間にラジオから音楽が流れてこなけりゃ意味ないじゃん。ユーザーはさ、レコード買ったらさ、もうラジオで聞かなくてもいいんだよ。
 これが彼の言い分だった。
 ぼくは、それは正しいと思った。


 彼は深夜放送のディレクターだった。選曲も割と自由にできる。
 そんな彼が考えたのは、オリコンのベスト100くらいに入ったレコードを、その後の伸びを予想して選曲することだった。いわば競馬の予想のようなものだ。伸びそうな曲を選んでかける。
 そしてその予想がユニークだった。目配りの出来る人でもあった。


 ハイファイの「Today」に登場した赤印のレコードが、「New Arrival」の緑色に変わる前に、サイトから消えることがある。どれが消えるのか、なんとなく予想している方から、お電話が入る。
 「あのレコード、もう売れちゃった?」
 「売れていません」とお答えしてご注文を頂く際にも喜んでおられるし、不思議なもので「売れました」とお答えし、その予想が当たった時にも、どこかしら楽しんでおられるように見受ける。
 そうですよね、いつだって予想は楽しい。予想が当たると、もっと楽しい。


 さてこちらのレコードはどうでしょう。どう思われますか?(大江田信)


試聴はこちらから。