Zalman Yanovsky / Alive And Well In Argentina

Hi-Fi-Record2011-06-05

ザルマン・ヤノフスキーこと
ザル・ヤノフスキーは
魅力的な存在だった。


ラヴィン・スプーンフル
実際に演奏している映像を見たことがあるひとなら
あのバンドに
得体の知れない突進力というか
やぶれかぶれな魅力を与えているのが
この男だということが簡単にわかるだろう。


あるいは
「魔法を信じるかい」は
あのギターソロがなくても
やっぱりおなじくらい名曲だろうか?


ジョン・セバスチャンの才能、ひとの良さを認めながらも
いつまで経ってもガキ大将っぽいザルに憧れる自分がいる。


ザルの生涯唯一のソロ・アルバムは
「おれはアルゼンチンで元気にやてるぜ」というひとを喰ったタイトルで、
内容はというと
タイトル以上にやりたい放題。


でも
名盤と迷盤のあいだをいつまでもうろうろしているような立ち位置が
やっぱりこのひとにはふさわしいわけで
“やぶれかぶれ”がぴったりサイズなのだろう。


かつて発売されていたこのアルバムの日本盤LPには
ザルは故郷のカナダでレストランを経営していると書かれていた。


それをずっと覚えていたぼくは
そのライナーを書かれた長門芳郎さんにはじめてお会いしたときに
「ザルのレストランに行ってみたいんですが」と
まじめに相談をした(バカにもほどがある)。


頭のなかで
厨房のなかでめちゃくちゃな料理をつくっては
客を混乱に陥れるのだが
人柄のせいもあっていつもにぎやかに混んでいる、
そんな憎めない“ザルの店”を勝手に想像していたのだ。


当たり前だが
ザルはレストランのオーナーなだけで、
そんな店であるはずもなかった。


それでもいいからいつか行きたいなと思っていたのだが
ザルは2002年の12月に亡くなり、
結局そのレストランもどうなっているのか
今でもわからないままでいる。


このアルバムには二種類のジャケがあり、
この手紙ジャケは後から出たほう。


今でもどこかで
めちゃくちゃやってるザルから便りが届いたみたいで
こちらのジャケもすごく好きなのだ。(松永良平