Caravelli カラヴェリ / Douce France

Hi-Fi-Record2011-07-02

 このアルバムの音源は全て聴いたことがあるし、CDは持っているのだが、フランス盤のオリジナルLPを初めて手にした。


 クレジットを見ると、「セ・シ・ボン」「バラ色の人生」「優しきフランス」の3曲は息子のパトリック・ヴァゾーリが、そして「リラのワルツ」「ラ・メール」「愛の讃歌」はオーケストラのキーボードのセルジュ・プランションがリズム・アレンジをしたと書かれていた。


 まず、これに驚いた。
 確かにこのアルバムは他のカラヴェリ作品に比べて、シンセサイザーの音色などを含めデジタル色が濃い。もしかすると息子の影響かなと、かねがね思っていた。どうにもカラヴェリのサウンドの好みとはやや違うなと思ってはいたものの、カラヴェリ以外の人がアレンジをしていた事をここで初めて知ったのだ。


 確かにポップス・オーケストラの場合は、この種の事柄は少なく無い。ウェルナー・ミューラーのオーケストラ・アレンジにおいては、彼が手がけたのは全作品のおそらく半分に満たないだろう。早くからバンドのメンバーにアレンジを任せている。


 だからして、何も今さらという面もある。
 しかし少なくとも今まで見て来たカラヴェリのレコードには、アレンジャーの名前は書かれていなかった。カラヴェリが自身で音楽を作っていると、ボクは思い込んでしまっていたのだ。


 ただし面白いのは、あくまでもリズムのアレンジを任せたという点だ。
 ということは、上モノは自分で編曲したのかなと思いながら耳を傾けると、確かに弦の響きはカラヴェリ的である。


 そしてもう一点、驚いたのがソロ・プレイヤーの名前が書いてある点だ。フルート、サックス、イングリッシュ・ホルンなどの演奏家名が記されている。ただしストリングスのメンバーの名前の全員が書いてある訳ではない。目立ってソロを取るプレイヤーの名前が書いてあるのだ。
 ポップス・オーケストラのアルバムで、クレジットに個人名が入っているのは、初めて見た。


 カラヴェリのオーケストラ・アレンジは、他の多くのポップス・オーケストラの編曲家に比して、時代を下るに連れて、ソロ・プレイヤーに演奏の自由を委ねる場合が多くなる。

 
 ボクが用意したアレンジに乗って自由に吹いてみたらと、カラヴェリがソロ楽器の演奏家に敬意を持って薦めていると思しき節がある。


 「カラヴェリは、ソロ・プレイヤーに多くを任せる」。ボクが今まで思い描いた、こうしたカラヴェリ的アレンジについての推察が当っているとすると、この演奏家名のリストはその証しになるのかもしれない。
 カラヴェリは、感謝を込めてアルバムに演奏家の個人名をクレジットしたに違いないと、こうして勝手にひとりごちているところだ。(大江田信)