The Band ザ・バンド / The Band

Hi-Fi-Record2011-07-17

ザ・バンドのセカンド・アルバム「ザ・バンド」を
品出しするにあたって
ひさびさに両面通して聴いてみた。


ファースト・アルバム
「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」が
当時の(現在でも)リスナーに衝撃と謎を与える
モコモコの朦朧とした音響だったのに対し、
このセカンドでは
サウンドもぐっとクリアーに整理され、
それぞれの歌や演奏からも
キャラクターがわかりやすく表現されている。


どちらが良いとかではなく
この2作には違いがあるということか。


もうひとつ言えば、
その違いとは
リチャード・マニュエルという男の
在りかたの違いでもあると思う。


「ビッグ・ピンク」では
「ウェイト」を除けば
アルバムの世界観をどっしりと担うのは
おおむねマニュエルの曲(もしくはディランとの共作曲)だ。


「ティアーズ・オブ・レイジ」
「イン・ア・ステーション」
「ウィ・キャン・トーク
「ロンサム・スージー


人生のやれきれなさ嘆く男のため息や
感情をコントロールできない男のつぶやきが
マニュエルの曲を通じて吐き出されている。


そのもやもやとした
重たい情感は
実は「ビッグ・ピンク」のアルバムそのものではないかとすら
思ったりする。


セカンドの「ザ・バンド」になると
そのマニュエルの存在感は
ロビー・ロバートソンの打ち出した
明快なサウンド・ヴィジョンのなかではかなり後退する。


おそらく
自分ひとりでは曲を書き上げられなくなっていたのだろう。
収められている彼の曲3曲は
すべてロバートソンとの共作だ。
そして
そのどれもが
ロバートソンの用意した傑出した名曲揃いのこのアルバムのなかでは
今ではすっかり脇役的な位置づけになってしまっている。


だが
あらためて聴いて
思わず耳を奪われた。


リチャード・マニュエルの曲
そのどれもが素晴らしいのだ。


「ホエン・ユー・アウェイク」
「ウィスパリング・ヴァインズ」
そして
「ジョーボーン」。


「ビッグ・ピンク」の亡霊、と言ったら言い過ぎかもしれないが、
あやうく消えてしまいそうなほど淡く儚い。


ザ・バンド」が歴史的名作であるということとは
まったく別の文脈で聴いてみてほしい。


なんて言うか、
曲が曲であることをやめて
ゆらっとよろけて泣き出してしまうような瞬間があるのだ
あの男の歌には。(松永良平