The Skyliners / Once Upon A Time...

Hi-Fi-Record2011-07-26

お気付きのかたもいらっしゃるかもしれない。


先週ぐらいから
ハイファイで販売中のアルバム紹介の欄に
【収録曲・データ】という項目が出来た。


横を向いている三角形をポチッとクリックすれば
三角形が下を向き(▼)、
曲目やデータが顔を出す。


データというのは
プロデューサーとかアレンジャーとかエンジニアとか
アルバム・ジャケットのデザイナーとかのクレジット。


そんなことを思いついたきっかけは
アレックス・スタインワイスのジャケット・アート集を
衝動買いしてしまったからなのだが、
スタインワイスのことは
別の日に語ることにして話を戻す。


データ記入がうまくいって
やがて大半のレコードについて情報が揃ったら
プロデューサー検索とか
デザイナー検索とか
そういうのが出来たら楽しいなあと思う。


まあ
それってぼくが楽しいだけかもしれないが、
そういうふうにレコードを探すことって
案外まだまだあるのではないですか?


どうでしょうか?


とりあえず今は
毎日のレコード出しの空き時間に
ぽつぽつとキーを打ち続けるだけだ。
なかなか作業が進まなくて
まだ成果が見えにくいかもしれないけれど
そのうちちゃんとさせますからどうぞよろしく。


ニューヨークで録音されたスカイライナーズのセカンド。


もともとピッツバーグのローカル・コーラス・グループであった彼ら。
1959年に放った大ヒット
「シンス・アイ・ドント・ハヴ・ユー」を収録したファースト・アルバム以来、
12年ぶりのアルバムとなる(その間、一度解散もしている)。


ドゥーワップに属する出自のグループが
これほど見事にセンスのいい転身を遂げた例を
ぼくは他に知らない。


そのわけを
いろいろ考えていたのだが
アルバムのデータを打ち込んでいたら
もしかしてその裏付けになるのかもしれない名前を
いくつか発見した。


レコーディングは
ニューヨークでもっとも洒脱をきわめたジャズマンだった
ドン・エリオット所有のスタジオで行なわれていた。


収録曲中2曲で
エリオットはアレンジャーとしてクレジットされているが、
実際は
サウンド・プロデュース的な部分までもっと関わっているのではないか?


エリオットは
ムシ声ジャズ・プロジェクト、ナッティ・スクワーレルズの
音楽的な中心人物であり
自らもヴォーカル多重録音などを早くから手掛ける才人だ。


プロデュースとアレンジは
同時期に「ザ・ラッパー」というバブルガム調のシングルをヒットさせていた
ピッツバーグの若いグループ、ザ・ジャガーズといクレジットになっているが、
それってどうもきな臭い。


ピッツバーグの先輩(スカイライナーズ)のバックを
後輩バンド(ジャガーズ)が担当し、
プロデュース料を後輩に支払って面倒を見てあげるという話なんじゃない?
実際の音楽面でのプロデュースとは話が違うと思う。


なんとなくだが
エリオットがプロデュース的な仕事をするうえでの
契約上の問題を回避しているようで
実にクサいと思うのだ。


また
ストリングス・アレンジには
ミーコ・モナードの名も。


のちにディスコ版「スター・ウォーズ」をヒットさせるアレンジャーで
シンセサイザーに造詣が深いこの人物、
1969年に
一枚だけの傑作「イヤー・ワン」をリリースしたソフトロック・プロジェクト、
ゴールデン・ゲイトにも深く関わっている。


さらに
エンジニアとしてクレジットされているのは
ロッド・マクブライエン!


ソルト・ウォーター・タフィ〜ゴーグルズの
中心的存在だった、あの彼に間違いない。


この時期の彼は
日々の糧を得るために
ドン・エリオットのスタジオで
裏方として働いていたのだと推察される。


ドン・エリオット、
ミーコ・モナード、
ロッド・マクブライエン、
この3者の力量が
本作には成分としてかなり多量に含まれているはず。


これほど豊かな才能を持ったスタッフに囲まれていて
このアルバムが
ソフトロック的色彩を帯びた傑作にならないはずはない。


オールディーズ・グループの突然変異で片付けてる場合じゃないんだ。


簡素なアルバム・クレジットが語る秘話。
それって考え過ぎかしら?
でも
ぼくには
いろんなことがずいぶん腑に落ちた気がするのだ。


もちろん
「シンス・アイ・ドント・ハヴ・ユー」を書いたコンビである
グループのリーダー、ジミー・ボーモントと共作者ジョー・ロックの
(ジョーには“クリエイテッド・バイ”というクレジットが特別に与えられている。
 彼が全体のプロデュース/ディレクションを行なっているのかも)
古びない感性にも拍手を。


では
さんざん聴いたこのアルバムを
今からもう一回聴きながら
今日も閉店まで、もうすこし仕事します。(松永良平