Cyril Stapleton And His Orchestra / I Wish You Love

Hi-Fi-Record2011-08-07

 社交ダンスに用いられる音楽について学んでみると、観賞用のポップス・オーケストラの音源と、ダンス向きの実用的な音源との間には、相当の差異があることがわかってくる。
 社交ダンスの実用音楽は、イントロが4小節であり、最初から最後までテンポが変わらることがない。メロディがきちんトレースされアドリヴは用いられないず、間奏が無い。そして最も大きな特徴は3分を大幅に越えることが無い。3分を超えて踊るのはまず難しいらしい。3分経つと息が上がってしまう。実際にダンスを踊ってみるとわかるという。


 同じ曲でも、観賞用のポップス・オーケストラ版では踊れないということもある。実用的な社交ダンス音楽は、踊らないものにとっては観賞用としては物足りないこともある。


 そんなことを考えながらシリル・ステイプルトン・オーケストラの本アルバムを聴いていたら、実用ダンス音楽の用向きを満たしながら、観賞用にも遜色が無いことに気付いた。
 アレンジに適度な遊びがありながら、テンポを崩すことが無く、リズムが取りにくいこともないから、たぶん社交ダンスにも使えるだろう。それでいてリード楽器が巧みに入れ替わり、耳を飽きさせることもない。ストリングスの響きが一定程度織り込まれているから、ふっくらとした響きになっているあたりも、聴き手に充足感を与えている。


 おそらくは社交ダンスの需要を前提に形作られた音楽のマナーを踏みつつ、レコードを聴く楽しみを誘おうとした音源ではあるまいか。
 こういう音楽がラジオから流れた日々があったと、ムッシュ・カラヴェリが言っていた。(大江田信)