Anita Kerr And The French Connection / Same

Hi-Fi-Record2011-08-28

 ファースト・コールという言葉がある。スタジオ・セッションをする際に、最初にスケジュールの空きを問い合わせるミュージシャンのことを言う。
 何月何日にレコーディングをする。この音楽だったら、ピアノに誰を呼ぼう、ベースに誰々のスケジュールの空きを聴いてみようと、という具合に真っ先に問い合わせるミュージシャンのことだ。


 1950年中期から60年代初期のナッシュヴィルにおいて、コーラス・グループを探す時には、おそらくアニタ・カー・シンガーズがファースト・コールだった。彼らはアーチストのツアーに同行することも無く、ほぼナッシュヴィルにとどまっていた。そして数多くのアーチストのレコーディングにおいて、バック・コーラスを努め、時にはアニタがアレンジャーを、時にはプロデューサーを務めた。カントリー・ミュージックが全体としてポップ化していった同時期に、その動きに無理することなく加わっており、それも彼女の音楽性のなせる技と思う。



 カントリー・ミュージシャンが出演するレギュラー出演する30分のテレビ番組がDVD化された際に、アニタ・カー・シンガーズの名前を見つけたので、それとばかりに購入したところ、なんと出演者の中にアニタ・カーが不在だった。
 音の具合からしても映像からしても、おそらく事前に収録されていたものだろう。映像には男性3人と女性一人。彼女はドティ・ディラードだった。左端の男性は初めて見た気がする。
 映像のどこにもアニタ・カーがいないのに、司会者はアニタ・カー・シンガーズと紹介する。シンガーズの中でも、もっともおもしろく不思議な映像だ。


 ロサンジェルス・シンガーズの場合は、メンバーのひとり、ジャッキー・ワードが欠席して、B.J.ベイカーが代理を務めたことがある。ジャッキー・ワードは売れっ子のセッション・シンガーで、レイ・コニフ・シンガーズのセッションに加わっていることもあるのだが、このあたりは一枚ずつレコードを手にして、クレジットを確認しながら、確かめるしか無い。その種のレコードにシンガーの名前がクレジットされることは決して多く無いので、なかなかに苦労するけれども。


 この1977年のアルバムは、75年作品に引き続き、ひさしぶりに古巣RCAからリリースされた作品だ。70年代の彼女の音楽志向をそのまま反映するかのように、斬新な試みを押し進めている。後ろを振り向いているようでいて、実は振り向いていない。これがアニタ・カー彼女の音楽を聞き取る際のポイントだろう。
 コーラスのメンバーはというと、Swiss Singersとだけインフォメーションされていて、詳細がわからない。


 3日間にわたって、なんとなくアニタ・カーのことを書いたのも、この11月にディスク・ユニオンから6枚組CD BOX SETの発売が決まり、アニタ・カーに念願のインタビューをすることが決まったから。


「THE ANITA KERR SINGERS / SPEND THE REALXIN' MOMENTS WITH ANITA」
アニタ・カー・シンガーズ / くつろぎのひと時をアニタと〜アニタ・カー・シンガーズ・ボックス


「その日はLife Time Dayですね」と松永クンに言われたけれども、まさにその通り。今からドキドキしてしまう。
 今年で彼女は84歳のはず。高齢を心配するボクに対して、何時間かのインタビューの後には食事に行きましょう、そこでもインタビューの続きは出来るだろうしと誘ってくれた。
 その時にでもSwiss Singersのことを聞いてみよう。そしてこの素敵な音楽の秘密も聞いてみたい。



 今日が大江田の担当最終日でした。
 ちなみにこのブログのタイトル「Voices In Hi-Fi」は、アニタ・カー・シンガーズのアルバム・タイトルからもらったもの。買付け中の車の中で、松永クンが提案してくれました。


 長い間のおつきあいを、有り難うございました。(大江田信)



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