The Mothers Of Invention / Absolutely Free

Hi-Fi-Record2011-08-31

ぼくが買付に行くようになって起きた
最初の世界的な事件は
ちょうど10年前の9・11だった。


あのとき
ぼくはハイファイで働きはじめて間もなく、
ニュースを聞き、
さらにあの崩れ落ちるビルの映像を見て
「あー、これでおれの新しい仕事終わったかも」と正直思った。


もうアメリカになんか行けなくなると思った。
だれも音楽なんか聴かなくなるかもとも思った。
本気で。


しかし
実際には
それから2ヶ月もしないうちに
ぼくたちは買付の旅に出かけた。


入国の質問は
それまでよりもずっと厳しくなっていたけれど、
決して
「だれもこの国には入らせないぞ」というようなものではなかった。


3週間ほどかけて
車で長い距離をめぐる旅程で
いろんな都市でいろんなアメリカ人たちと会った。


事件に心を痛めているひともいたし
アメリカの自業自得と受け止めるひともいた。


そして
ぼくたちも
いろいろと考えることはありながらも
それまでと同じようにレコードを買付していった。


一所懸命生きていても
間違ったことは起きる。


ひどいことが起きても
毎日はつづく。
それが人生。


それまでも
小説や映画を通じて
アメリカ人のそういうコモン・センスには通じてきたつもりだった。
でも
それを市井に生きるひとたちから実感として感じたのは
あのときが初めてだったような気がする。


あれから10年経って
今年、日本は、ひどいひどい目に遭った。


当日
ぼくと大江田さんはシアトルにいて、
ぼくは
テレビの画面を
眠れずに見続けているしかなかった。


「あー、この仕事
 今度こそ終わりかも」と思った。


それでも
日々は続いた。
ぼくは相変わらず
お店で働いている。


ひどいことが起きても
毎日はつづく。
つづけなくちゃいけないとも思う。
ちょっとはマシになるように。


アメリカとその文化から学んだ
人生訓のような
適当なおまじないのような
そんな妙なクスリが
ぼくにもすこしは効いているのかもしれない。


1884日と書くと
なんだかすごい数字のような気もするけれど
ただ毎日思うことを書いて来たブログでした。
今日でおしまいです。


最後のアルバムは
アメリカというものの裏も表も
今日一番あらわにしているものにしました。


ハイファイ・スタッフを代表して最後にお礼を。


ご愛読ありがとうございました。(松永良平