Kui Lee / The Extraordinary Kui Lee

Hi-Fi-Record2012-09-04

 クイ・リーは、彼の歌を広めたドン・ホーと、カメカメハ高校で2年違いの同窓生。ニューヨークでのショウマンの仕事に疲れたクイがハワイに戻って来てワイキキの北、カネオヘに自宅を構えたのが1961年。家の近くには、ドン・ホーがバーを開いていた。聴いてほしい曲があるんだと言って、店の開店準備を終えてくつろぐドン・ホーのところに、クイ・リーは自作を持ち込んだ。


 二人はハワイをよく知る者によって、ハワイのための曲を作りたいと考えていた。
 店が評判を呼び、ドン・ホーがワイキキに進出した2年後、いつもと同じようにしてクリ・リーがドン・ホーに聞いてほしいと持ち込んだのが、「I'll Remember You」だ。歌の素晴らしさに驚いたドン・ホーは、そのまま宿泊先にしていた近くのホテルにクイ・リーを誘い、一晩で歌を仕上げたという。後々になってエルビス・プレスリーアンディ・ウィリアムストニー・ベネットアニタ・オディ、ヴィック・ダナらが歌い、広く知られるようになった同曲はこうして出来上がった。


 アメリカのショウビズ界に10年暮らし、成功の一端を手にしながらハワイに戻ったクイ・リー。ドン・ホーもまた、本土での大学生時代に、訊ね歩いた旅先のレストランで、ことあるごとに肌の色を理由に食事にありつけなかった経験をしている。


 「あなたの声は、やわからく夏のそよ風のよう」として始まる「I'll Remember You」が、アルバム冒頭に収録されている。ふと聞くとラヴソングのようだ。思いを寄せる異性として「You」を聞き取ってもいいかもしれない。
 しかしクイ・リーにとって、そしてドン・ホーにとっても、「You」とは故郷の「ハワイ」のことだったに違いないと、ぼくは想像する。


 ハワイを望郷する歌であり、ハワイを讃える歌。
 このようにして歌を聴き直すと、またひとつ違う味わいを感じることになるだろう。


 歌が書かれた時、すでにクイ・リーは、咽頭ガンを発症していた。
 これは目前の死を意識しながら制作されたアルバムだ。アルバム発表後、ひと月ほどしてクイ・リーは亡くなった。(大江田)


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