アニタ・カー / ヴェリー・ベスト・オブ・アニタ・カー

Hi-Fi-Record2012-10-03

 久しぶりにアニタ・カーからメールが届いた。この前にもらったのは、病床からiPadを用いて書かれたものだった。今回のメールには、無事に退院して今は家にいるとあった。近況をほんの少し書くだけで疲れてしまったとも書かれていたので、まだまだ本調子ではないのだろう。こちらから出したメールにひと月以上も返信が無く、いささか心配していたところだったので、ほっと一安心した。


 今年の早々に地元のクラシック・オーケストラのために委嘱作品を書いているし、昨年の暮れにスイスの家のお邪魔した折には、兄の誕生日のために彼が好きなジャズ・ナンバーを歌う、出来立てほやほやの音源を聞かせてくれた。自らの声を重ねてコーラスを作り、それをアップ・トゥ・デイトなアレンジに収めており、気持ちがいい仕上がりだった。彼女には、音楽制作への意欲が途絶えることが無い。


 ワーナー・ブラザーズ在籍時代のアニタ・カー音源をまとめたベスト盤CD「ヴェリー・ベスト・オブ・アニタ・カー」の終曲には、「ジ・エヴァー・コンスタント・シー」を選んだ。
 1967年にスタートしたアニタ・カーとロッド・マッケンによる一連のコラボレーション・アルバムにおいて使われたメロディである。第一回作品「海」は、このメロディと共に始まりる。


 143週間というから、3年近くものあいだアルバム「海」はヒット・チャートに在位し、100万枚を越えるセールスを記録するヒット作となった。ロッド・マッケンが自作詩を朗読し、アニタ・カー作・編曲による音楽がバックアップするという同企画シリーズは70年代中期まで続き、計13作のアルバムが制作された。
 「ジ・エヴァー・コンスタント・シー」のメロディは、これら一連のアルバムに繰り返し用いられたほか、シングル盤においても発表されている。ふと購入してみたところ、アルバムとは全く違うアレンジだった。ワーナーからドットに移籍して発表したピアノ・インストルメンタル・アルバムにおいてもアニタ自身のピアノによって演奏され、これまた印象深いアレンジになっていた。
 ふたりのコラボレーション・アルバムの通奏低音のようにして繰り返し用いられた同曲を、美しくコーラスしているテイクがある。これをCDの終曲に収めた。


 アニタ・カーとロッド・マッケンによる一連の企画アルバムがあることを何となく知っているものの、おそらく多くの人は一端を聞いて、それですべてを聞いた気になっていることだろう。
 その気持ちも分る。しかし一つ一つ丁寧に聞いて行くと、こんなに美しいコーラス作品と出会うことも出来る。これをぜひ知ってほしかった。(大江田)