Harry Tuft / Across the Blue Mountains
先日、久しぶりに彼に会った。アメリカのフォーク界の重鎮というとややおおげさかもしれないが、フォーク界の良心だと言っていいだろう、ミスター・ハリー・タフト。
レコードや楽器を販売しコンサートを企画するフォークロー・センターを60年代の末から主宰し、およそありとあらゆるフォーク・シンガーのコンサートを手がけてきた。
人当たりがよくて、おだやかな人柄、そしてもちろんフォークに造詣が深く、知的な人物だ。
開口一言、いまでも同じ仕事をしているの?と聞かれる。そうですよと答えると、それはいいねと答えが返ってきた。ぼくとハイファイのことをよく覚えているのだ。
これは彼のソロ・アルバム。最近ではグラブステイクというユニットで活動を続けていて、ソロ・アルバムはこの一枚しかない。1976年の作品だ。
どれも人柄の暖かさを感じさせる演奏なのだが、A面の2曲目に収録された「You Gonna QUit Me,Baby」がとても好きだ。ブラインド・ブレイクのオリジナルとして知られるこの作品を、自分はマーク・シルバーというフォーク・シンガーから教わったと添付のライナー・ノーツに記している。
アルバム収録曲の多くが白人系のフォーク・ソングのなか、この曲のみが黒人系のカントリー・ブルースだ。アルバムではやや異色のレパートリーである。さらっとしたブルースを、あっさりとした口ぶりで歌う。ふと記憶に残り、そして消えることが無い。そんな演奏だ。
アルバム・ジャケットでこちらを向いてほのかに微笑んでいる写真が、30年も前のものとはにわかに信じがたく思う。
作品を聞いてから彼と出会ったからだろうか。
確かに彼には、白髪が増えたものの、この写真のどことも変わっていないように思う。
そのやわらかい歌声が、ぼくの頭の中でいまも響き続けているからなのだろうか。
毎年のクリスマスカード、どうもありがとうと、彼はにこやかに笑いながら話を続けた。(大江田信)