Ry Cooder ライ・クーダー / Into The Purple Valley

Hi-Fi-Record2007-11-01

 1970年代の渋谷、百軒店にあったロック喫茶「ブラック・ホーク」は、ファンの憧れの場所だった。
 輸入盤の新譜一枚を買うことすら大変だったし、評価の高まりつつあるレコード、例えばフィフス・アベニュー・バンドのカット盤が店頭に出るという噂が流れると、ショップには早朝から開店を待つ行列ができた時代だ。
 ブラック・ホークには入手が難しい新譜が定期的に入荷していたし、そのセレクションは実に独特だった。



 ブラック・ホークでどんなレコードに人気が集まったのか、店が発行していたミニコミ、「スモール・タウン・トーク」を手に取るとよくわかる。なかでも1977年12月発行の第11号には「ブラック・ホークの選んだ99枚のレコード」とする特集記事が掲載され、ここにはブラック・ホークが推すレコードが勢揃いしていた。
 これをひとつの指針として音楽を聞いたファンも少なくなかった。
 発行されてから20年近くもたった頃、今から10年ほども前のこと、シンガー・ソングライターのレコードを探す同年代のお客様たちとの会話の中で「99枚のレコード」のことが話題に上り、同書を手元に持っていた僕は、コピーを取ってはお送りしたこともある。
 店の運営の中心的な存在だった松平維秋さんの選択眼、音楽家との距離の持ち方などが、色濃く反映した内容だった。



 松平維秋さんが生前に残された文章や、最新の情報と共にリニューアルした「99枚のレコード」、当時の関係者のインタビューなどで構成された「渋谷百軒店ブラック・ホーク伝説」と題されたムックが発刊された。松平さんと親友だった浜野智さんが手がけられたこともあり、心地よく重たい手応えの一冊となっている。



 「Into The Purple Valley」は「ブラック・ホークの選んだ99枚のレコード」に選ばれる栄誉を得た作品だ。
 リニューアルした「99枚のレコード」とは、「ブラック・ホークの選んだ99枚のレコード」を、当時に書かれた松平さんの文章を残しつつ、現時点での視線で今一度、評価し直してみようという試みで、本作については僕が担当した。
 原稿を書く段になって繰り返し聞き直し、未だにおもしろくスリリングな一枚だと、改めて思った。それはライ・クーダーが音楽を発想する方法が面白いからだ。そんなことを、原稿に書いた。
 詳しくは同書を手に取って読んでいただければ幸いだ。(大江田信)


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