Peter, Paul And Mary / Peter, Paul And Mommy

Hi-Fi-Record2009-07-15

 ドイツの児童文学者、エーリッヒ・ケストナーが好き。前にブログに何か書いたような気がして捜してみたら、「人生処方詩集」のことを少し書いていた。


 人生処方詩集でもそうだけれども、彼の小説で特徴的なことは、現実社会の苦さや、曰く言い難いばかばかしさが、巧みに映し込まれていることだろうと思う。
 こどもの頃から貧しい暮らしの中で苦労して育ったことによるもの、と解説されることもある。世のさまざまを、皮肉で辛辣なまなざしと共に見る。
 そんなケストナーは、児童文学作品を書いて知名度を得る。


 彼の名を知らしめた「エミールと探偵たち」は、少年エミールが乗っていた列車の中で居眠りをしている間にすられてしまった大金を、ベルリン中の少年たちの手を借りつつ犯人を追い回し、ついには取り戻すという物語り。犯人は、なんと列車で隣席に座った大人なのだ。混乱の時代という背景があるとは言え、これがなんとも切ない。と同時に、ウソみたいにキラキラした夢物語では無いというところもまた、いかにもケストナーらしい。人というものの本性を射抜く視線と、同時に人というものを信じる願いとが共存している。


 「エミールと探偵たち」に、忘れられない一節がある。
 エミールとベリリンの少年たちが大捕り物を演じている最中に、差し入れが持込まれる。持って来てくれるのは、自転車が大好きで、登場する時には必ずと言っていいほど自転車に乗っている少女、ポニー・ヒュートヘン。
 彼女がコーヒーとバタパンを持って来てくれる。


 その一節読んでから、ぼくは数日間の間、バタパンを食べ続けた。
 ただしくはドイツパンなのだろうが、ぼくが食べたのは日本的な四角いパンをトーストして、たっぷりのバターを塗ったもの。それでも、とても満足していた。だいちドイツパンなんて、小学生の頃、杉並の自宅の廻りでは何処にも売っていなかった。
 「パタパン」という響きがとても好きになった。「バタパン」、なんとスッキリした表現なのだろう。


 食事にまつわる歌のひとつ。折りに触れて思い出のが、ここに収録の「クリスマス・ディナー」だ。
 クリスマスの夜、すべての家のテーブルに豪華な食事が用意されている頃に、通りを行く一人の貧しい少年が、とある家の窓を覗き込んでいるというお話。
 

 そしてこの唄は、ドラマチックな展開を見せる。
 それについては、またいつか書いてみたい。(大江田 信)



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