Bruce Roberts ブルース・ロバーツ / A New Kind Of Feeling

Hi-Fi-Record2010-10-07

クライヴ・デイヴィスが
コロムビアの社長を務めた時期(1960年代半ばから70年代前半)を回顧した本
アメリカ、レコード界の内幕」は
何度読返しても発見ばかりの素晴らしい一冊だ。


しかし
彼がなしとげてきたことの偉大さは重々承知しつつも、
あまりの切れ者ぶりに
ときどき心が痛む場面もある。


たとえば
彼がコロムビアで押し進めた有名な施策のひとつが
モノラル盤のいち早い撤廃。


モノラル盤に宿る音響芸術を
事実上死に追いやった犯人のひとりが
このひとなのだ。


剛腕でならした彼も
やがて社内クーデターに遭って
コロムビアを事実上追放されてしまうのだが
その際に
このダメな会社を再生してみないかねと声をかけられる。


そのダメ会社が
ベル・レコード。


その当時
業績が瀕死の状態にあったベルを
クライヴは
いまだにシングル・アーティストにこだわる
時代遅れのレーベルと決めつけ、
バリー・マニロウとメリサ・マンチェスター以外の
ほぼすべての契約アーティストにクビを言い渡した。


アンペックスから移籍してきたばかりのアルゾも
そのとき完成間近のアルバムを破棄され
クビになったひとりだったりする。


そして
あらたに設立されたのがアリスタ・レコード。


結果的に言うと
その大ナタは大正解で
今日まで彼を業界の最重要人物として長らえさせる一端となった。


でもさあ、
ベルには
ソングライターたちに
自分の曲をレコーディングする機会を与えるという意味で
シンガー・ソングライター時代到来の素地を作ったという
良い面もあったんだけどな。


若き日のブルース・ロバーツ
このシングルも
ベルのおおらかな体質抜きにしては
決して世に出なかっただろう。


まあ、
とは言ってもこのシングルも全然売れてないけど。


でもひとこと。


ソングライターの無名時代のシングル盤の宝庫という意味で
ベルはぼくたちディーラーにとっては
全然ダメなレーベルじゃない。


そのことが言いたかった。


4、5回まわってニャンと鳴く その22 松永良平