Les Baxter レス・バクスター / Music Of The 60’s

Hi-Fi-Record2010-02-28

 このあいだのブログで、邦題「ジャワの夜は更けて」の原曲のタイトルが「Java」だという話を書いた。書きながら、思い出した曲があった。


 それは「パリの可哀そうな人々」。実際に聞いてみるとわかるが、どこが可哀そうな人々を描いたのだろうというくらいに明るいメロディで、暮らしは貧しくとも心を明るく的な警句にでもなっているのかと、曲解してしまうほど。それにしてもなんというタイトルなのだろうかというのが、初めて見たときの感想だった。


 これもまた何処かで間違いが起きて付けられたタイトルなのだ。
 この曲、英語のタイトルは「Poor People Of Paris」。邦題はこの英題を直訳したものなので、邦題命名者に罪はない。


 もともとはエディット・ピアフの歌唱で有名なシャンソン。フランス語の原題を「La Goualante Du Pauvre Jean」(あわれなジャンの歌、あるいは可哀想なジャン)という。
 フランスではしごく一般的な男性の人名のJean ジャンを、キャピトルのフランス支社のスタッフがPoepleを意味するGensと間違ってタイピングしてしまった。そうして名付けられた英題とされている。


 日本では、「La Goualante Du Pauvre Jean」がシャンソンの世界で歌われる時には、「あわれなジャンの歌」などの邦題のもとに紹介され、アメリカ経由のインストルメンタル曲の場合は「パリの可哀そうな人々」として紹介されるという、同一曲にふたつの邦題が用いられるという事態が生じる。


 オリジナルのシャンソン版の同曲には、もともとアメリ1920年代のチャールストン的なニュアンスがある。「パリの可哀そうな人々」を聞くと、フランスに伝わったアメリカ音楽が、50年代になって本国に帰って来たという感じもする。
 レス・バクスターが演奏したこの曲、1956年には全米チャートの一位に輝き、4週間の間、一位を守った。


 いまちょうどハイファイのネット上でこの曲を聴いて頂けるということで、ご紹介を。
 それにしても邦題を「パリの可哀そうな人々」としたディレクター氏は、シャンソンの知識を持っておられたのではないかと思ってしまう。巧みな折衷案ではないかと、今にして改めて思った。(大江田信)



試聴はこちらから。