Richard Natto / Not Just Another Pretty Face

Hi-Fi-Record2012-10-21

「Not just another airport」という看板を掲げた
ちいさなちいさな飛行場を見つけたのは
アメリカのどこかの高速の出口付近のことだった。


アメリカでは自家用飛行機を持つことは
決してそれほどめずらしいことではないので
その格納と離発着のために
空港とは名ばかりの空き地が
そういうふうに銘打っているケースはすくなくないのだという。


「Not just another」は
直訳すると「単にもうひとつの、ではない」だが
そこからもうひと転がししたところに
すっと飲み込める正解がある。


要するに
「単にもうひとつの、ではない」→「よくあるようなものじゃない」→「特別な」
それで正解。


もっというと
そこになんてのかな、
「特別なんですよ!」って見栄をきるのとは違うニュアンスの
恐縮といいますか
含羞っていいますか
声高にアピールするのではなく
たいせつな感情が見え隠れする感じといいますか。


そんな特別。


「いえ、まあ、なんていうか、特別な」みたいな
うまく言えないけれど
ゆずりたくない感情。


その空港のような
単にだだっ広い空き地の持ち主は
「こんな感じですが、結構いい空港なんですよ」と
ユーモア混じりの宣伝をしているだけなんだろうけど。


はじめてこの言い回しを教えてもらったときに
目からウロコがぽろぽろと落ちた気分がした。


それを教えてくれたのは
NRBQのトム・アルドリーノだった。


いろんな音楽同様に
生きてる英語も
彼からたくさん教わった。


だからかな、
彼が亡くなってから
ハワイのシンガー・ソングライター
リチャード・ナットの素晴らしいソロ・アルバム
「Not Just Another Pretty Face」をきくときは
アルバムの内容とは関係ない
もうひとつの特別なせつなさが加わるような気がする。


まさに
“Not just another”な、せつなさのことです。(松永良平

Alvino Rey アルヴィノ・レイ / Ping Pong!

Hi-Fi-Record2012-10-13

ノーベル医学生理学賞を受賞した時の人、京大の山中伸弥教授。各報道ですでにそのお人柄から背景まで様々な情報が伝えられていますが、目に留まったニュースがこちら


山中教授効果 ビリー・ジョエルCDの発注増加(スポニチ)


「通常の5倍」の発注と聞いて、なんとなく普段の"通常の"発注枚数を想像する自分が少し嫌になります。


山中教授がジョギング時にビリー・ジョエルの「プレッシャー」を聴いている。


「だから、欲しい!」という気持ち。


「あのヒーローの変身グッズが欲しい!」という気持ちと同じで、純粋で素敵なものだと思うのです。


ビリー・ジョエル氏から山中教授にお祝いのコメント。ビリー・ジョエル氏が所属するソニー・ミュージックさん、いかがでしょうか。


そういえば昔、「ジョギング用の選曲でCDちょうだい!」とお願いされたことがありました。


「やっぱりBPMは早めの、ちょいテクノ寄りの、中田ヤスタカ的な、割と打ってるけどうるさくなくて、みたいな?(語尾上げて)」と言ったところ、
「うーん…、なんだろ。」と歯切れの悪い返事。そこで「最近のジョギングでは何聴いているの?」と訊くと


「コ●クロ」とのことで。
(※コ●クロには何の悪意もございません。)


ジョギング! 走ってる! 汗かいて有酸素運動中! 脳内エンドルフィン出る! 


こんな最中に聴く音楽だから、という前提、イメージはいったいなんだったのか。


いろんな人のジョギング・サウンドを知りたいこのごろです。コ●クロはちょっと耳からウロコでした。


Alvino Rey アルヴィノ・レイ / Ping Pong!


ティール・ギターの名手、アルヴィノ・レイによるピンポンをイメージしたサウンド集…


ピンポンって、こんなんだっけ!? 「12th Street Rag」? ラグやし!


と、思いきや、これは


「左右にパンする」=「左右に音が行き交う」=「左右にボールが行き交う」


そう、ピンポン!


お見事です。
こういうことを含めて、アルヴィノ・レイって本当に洒落者だなと感心しちゃいます。
なお、ピンポンのBGMとして機能するかに関しては、個々の好み問題ですので、これ以上追求しません。


(藤瀬俊)


Hi-Fi Record Store

アニタ・カー / ヴェリー・ベスト・オブ・アニタ・カー

Hi-Fi-Record2012-10-03

 久しぶりにアニタ・カーからメールが届いた。この前にもらったのは、病床からiPadを用いて書かれたものだった。今回のメールには、無事に退院して今は家にいるとあった。近況をほんの少し書くだけで疲れてしまったとも書かれていたので、まだまだ本調子ではないのだろう。こちらから出したメールにひと月以上も返信が無く、いささか心配していたところだったので、ほっと一安心した。


 今年の早々に地元のクラシック・オーケストラのために委嘱作品を書いているし、昨年の暮れにスイスの家のお邪魔した折には、兄の誕生日のために彼が好きなジャズ・ナンバーを歌う、出来立てほやほやの音源を聞かせてくれた。自らの声を重ねてコーラスを作り、それをアップ・トゥ・デイトなアレンジに収めており、気持ちがいい仕上がりだった。彼女には、音楽制作への意欲が途絶えることが無い。


 ワーナー・ブラザーズ在籍時代のアニタ・カー音源をまとめたベスト盤CD「ヴェリー・ベスト・オブ・アニタ・カー」の終曲には、「ジ・エヴァー・コンスタント・シー」を選んだ。
 1967年にスタートしたアニタ・カーとロッド・マッケンによる一連のコラボレーション・アルバムにおいて使われたメロディである。第一回作品「海」は、このメロディと共に始まりる。


 143週間というから、3年近くものあいだアルバム「海」はヒット・チャートに在位し、100万枚を越えるセールスを記録するヒット作となった。ロッド・マッケンが自作詩を朗読し、アニタ・カー作・編曲による音楽がバックアップするという同企画シリーズは70年代中期まで続き、計13作のアルバムが制作された。
 「ジ・エヴァー・コンスタント・シー」のメロディは、これら一連のアルバムに繰り返し用いられたほか、シングル盤においても発表されている。ふと購入してみたところ、アルバムとは全く違うアレンジだった。ワーナーからドットに移籍して発表したピアノ・インストルメンタル・アルバムにおいてもアニタ自身のピアノによって演奏され、これまた印象深いアレンジになっていた。
 ふたりのコラボレーション・アルバムの通奏低音のようにして繰り返し用いられた同曲を、美しくコーラスしているテイクがある。これをCDの終曲に収めた。


 アニタ・カーとロッド・マッケンによる一連の企画アルバムがあることを何となく知っているものの、おそらく多くの人は一端を聞いて、それですべてを聞いた気になっていることだろう。
 その気持ちも分る。しかし一つ一つ丁寧に聞いて行くと、こんなに美しいコーラス作品と出会うことも出来る。これをぜひ知ってほしかった。(大江田)

Robert Crumb And His Cheap Suit Serenaders / Party Record

Hi-Fi-Record2012-09-25

ハイファイの古くからのお客様からメール。


書き出しは
「町内で各家庭にまわす回覧板があるのですが、
 班長が製作する回覧板がまず一軒目にやってくるのが我家なんです。」
というもの。


ほおほお、
そんな日常の話をなぜわざわざメールで?


そう思いつつ読み進めて
思わずほほがゆるんでしまった。


回覧板が雨の日に濡れたりしては大変と
ビニール袋などに入れて次の家に渡していたところ、
あるとき、
適当な袋がなくて
ハイファイの黄色い袋に入れて渡したのだそう。


そしたら
ちょうどよいサイズと強度だったのか、
はたまた黄色が目立つのか、
それ以降、
ご町内の回覧板がずっとハイファイの袋に入って回っているらしい。


なんでも
ご町内は彼の世帯をのぞけば
60〜80代のご高齢のかたがたが多く、
戦前の長屋やアパートも残る家並みだという。


おばぁちゃんたちがハイファイの黄色い袋をもって
ぷらぷら歩いて「はいよ」って渡してる光景をみてしまった彼は
可笑しくてたまらなくなったのだそうだ。


たぶん
彼女たちが
まるで熟練のレコード狂の集まりで
レコードの貸し借りでもしてるかのように
見えてしまったんだろう。


その気持ち
わからないでもない。


今度
おばあちゃん、その袋に
自分の好きなレコード入れてみてよ。


案外、しゃれたの
はいってるかもしれない。


いいの買ったのよ、
あんたもきいてみなさいよ
今夜うちでレコード・パーティーしましょうよ、ってね。


回覧板ならぬ
回覧レコード。


レコードはまわり、
あいさつははずむ。(松永良平

Jorgen Ingmann ヨルゲン・イングマン / Ingmann Guitar Plays Movie

Hi-Fi-Record2012-09-23

ズコッ!
昨日と今日だったことに、今しがた気がつきました。


東京駅丸の内駅舎保存・復元工事 完成イベント
「TOKYO STATION VISION
http://www.nhk-ep.co.jp/vision/


こんなイベントだったようです。


個人的には、あの山手線の発車メロディがブレイク・ビーツに合わせて鳴る7分半あたりが素敵でした。


オリンピックの開閉式、ディズニーランドのエレクトリカル・パレードもそうですが、あのようなビッグなショーは有無を言わさぬ感動があると思うんです。
上に挙げた映像も、超精密な転写技術を駆使して、大きな東京駅という建築そのものに転写するというビッグ・ショー


今回のイベントでのみでなく、毎月何回か決まった時間に催せば良いと思うのですが、どうでしょう。
そして、隔月はキツいかもしれないので、年4回、いや、半年に1度くらいで、映像と音楽、演出を変えながら。
フォーマットはこの企画で完成していることですし。


Jorgen Ingmann ヨルゲン・イングマン / Ingmann Guitar Plays Movie Themes, The


これはもうジャケの見た目で。


このジャケのはもちろんただの照明で、最先端技術であるプロジェクションマッピングを用いた高精細フルCGではありません。


デンマークコペンハーゲンにある人気の観光スポット、チボリ公園にある建物の写真のようです。
…調べるのに少し時間がかかりました。ヴァイキングとサッカーの名選手ラウドルップ兄弟&ゴール・キーパーのシュマイケルくらいしか知らないもので(笑)。


そうです(でした)、ギミカルなアレンジが得意の多重録音派のギタリスト、ヨルゲン・イングマンはデンマーク人。
本作では、タイトル通り世界でヒットした映画の主題歌をカヴァー。
サブタイトルには「The Unique Sound Of Denmark's Guitar Stylist」とあります。
1843年に建てられたこのチボリ公園も、当時他の国の人から見たらさぞかし"ユニーク"だったことでしょう。


東京駅のこの企画作品もとてもユニークなものだと思います。
いや〜、年に何回かやって欲しいな〜。新しい名物になったらいいな、と。


(藤瀬俊)


試聴はこちら

All You Need Is Love / Anita Kerr Singers

Hi-Fi-Record2012-09-17

 ワーナー・ブラザーズ在籍時代のアニタ・カー音源をまとめたベスト盤CD「ヴェリー・ベスト・オブ・アニタ・カー」が発表される。プロデューサー・作編曲家・コーラス主宰者として活躍した彼女の仕事ぶりを聞く作品、こちらの選曲・ライナー執筆を行った。


 選曲の過程で、またいつものようにご本人とやりとりをした。面白かったのは、ナッシュビル時代とは随分と制作時の発想が変わって来ていることだ。ワーナー時代は、目前に起きている音楽の変化に積極的に呼応しようとした。


 アルバム「All You Need Is Love」においては、ロック・ヒッツを選曲して歌った。選曲は彼女自身。自身の好きな曲を選んだ。自分たちはロックを歌うようには見えないかもしれないけれども、実はロックを歌うことができることを証明したかったと、本人のメールにあった。


 うまく意訳できないので、ちょっと分りにくいかもしれないが、要するに自分たちはロックを歌うアーチスト達と時代精神を共にしていたんだと言いたいのだろう。ココロはバッチリ、ロックだったのよ。


 CD「ヴェリー・ベスト・オブ・アニタ・カー」には、このあたりの彼女の気持ちに少しでも応えようと思って選んだ曲がある。


 そのトップ・バッターは、アルバムに収録されること無くシングル・オンリーとなった「All This」。今のコトバにすると、素晴らしい"ソフト・ロック"だ。このモノのシングル盤をステレオ針で聞くと、ダイナミックなサウンドがどうしても少し歪み気味なるのだが、21世紀の技術を持ってしてCD用にマスタリングしたサウンドは、とてもすっきりしたものになった。スゴーく嬉しい。


 次回に続きを。まだまだこのCDについて触れたいことがある。(大江田)

John Greenway ジョン・グリーンウェイ / The Cat Came Back

Hi-Fi-Record2012-09-16

「おまえ、日本人だろ? このレコード知ってるか?」


店の若いオーナーがぼくに一枚のレコードのことで話しかけてきた。


そのレコードのこと
ぼくは知っていた。
たしか何年か前に出ていた本「猫ジャケ」にも掲載されていたはず。


その名もずばり「ねこ」。
「猫」という日本のニューミュージック・グループもいたが
ぼくが見せられたのはそちらではなく
「ねこ」そのもの。


猫の顔を大きく写したジャケットに
「ねこ その素晴らしき世界」と書かれた帯がついてる。


どんなレコードかと彼がきくので
帯に書いてあるとおりのことを
こう答えた。


「A面はリアルに猫の鳴く声だけを録音したもの。
 ヴォイス・サンプリングとかで音楽的なことをするんじゃなく
 ただ本当に猫がうろついてときどき鳴くだけ。
 そしてB面は……」


そこで思わず説明に困り、口ごもってしまう。
でもいつもは無愛想な彼がニコニコしながら待っているので
思い切って説明した。


「B面は……、
 猫の鳴き声をバックにしたポエムの朗読。
 ジャパニーズ・フェイマス・アクターがやってる」


おーい、マジかよ、というような意味の声を彼はあげた。
そしておもむろにカウンターに向かう。
どうやら店主は
そのレコードをお店でかけることにしたようだ。


最初はA面。
いかにも生録りな空気音の向こうから
「にゃー」と鳴き声がきこえてきた。


「ひゃっほー!」


そのときの彼の盛り上がりといったら!


気がつくと
さっきから店内をうろうろしていたちいさな女の子が
店主になにやらたのしそうに耳打ちしている。


そうか。
このレコードについて知りたかったのは彼女で
彼女のリクエストをうけて
父親としてぼくに委細を尋ねたわけだ。


思いがけず猫の鳴き声をききつけた他のお客も
なんだなんだと続々とカウンターに集いだした。


「今、このレコードはこの店一番のヒット・アルバムだぜ!」


やがてA面は終わり、
そこからB面へ。


今度は鳴き声をバックに
名優、竹脇無我の渋い声が流れ出す。


するとどうだろう、
「プッ」「ププッ」と
彼らはこらえきれずに笑い出したのだ。


なにをしゃべってるのか意味はわからなくても
猫にかこまれながら
男がなにか場違いなことを語っているというおかしみを
彼らは確実に感じ取っていた。


不本意ながら
ぼくもつられて笑った。


「なー、この男、なにしゃべってるんだよ、教えてくれよ」と言いながら
もうだれも意味なんかどうでもよかった。
彼らも笑った。
ぼくも笑った。
やがてみんなおなかを抱えて笑い出して
もうだれも笑いをとめられなくなってしまった。(松永良平


注意!
写真のレコードは
この話題とはまったく関係がありません。
ただ単にぼく(松永)の好きな猫ジャケです。
ごめんあそばせ。