Peter, Paul And Mary / No Easy Walk To Freedom

Hi-Fi-Record2013-01-27

 昨年の暮れにピーター・ヤーローに会ってインタビューをした。


 ピーター・ヤーローは、フォーク・グループのピーター、ポール&マリーのリーダー。マネージャーだったアルバートグロスマンに、グループを組んだらどうだと助言され、ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジで出会ったマリー・トラヴァースとノエル・ストーキーに声をかけて、バンドを結成した。



 彼らの初期のヒット曲、「パフ」のシングル盤が、僕のハジレコだ。カプリングは、「風に吹かれて」。資料を見るとこのカプリング版は66年4月に発売されている。僕が中学1年になったばかりの頃だ。その次に買ったのは、マイク真木の「バラが咲いた」だった。こちらも66年4月の発売と資料で知った。



 ピーター・ヤーローは、その頃からの僕のアイドルだった。
 厚生年金会館でのコンサート終了後、楽屋口から出てくるピーターを待って、手にしていたアルバム「ライヴ・イン・ジャパン」にサインをもらった。これもたぶん中学の終わり頃のことだったと思う。



 アルバムを繰り返し聞き、インタビュー記事を雑誌「ポップス」で読み、そして小室等さんが執筆した教則本を読んで、ギターを練習した。中学の同級生3人でコピーバンドを組み、繰り返し練習しては、友人から借りたテープレコーダーに録音した。



 ずっとファンだった。どこでどうしたものかよくわからないのだが、なんとなくピーターが考えていることの想像がつくような気になった。
 どこでそんな根拠の無い自信が生まれたのか分らないのだが、おそらくそれは数限りないほどの回数にわたってレコードを聴いたからだろうと思う。ピーターの選曲、彼自身が書く歌の歌詞、歌詞のニュアンス、歌い方に込められるもの、美意識、政治との関わり方、そしてちょっとした雑誌記事の断片などから、ぼくなりのピーター像が育った。



 インタビューの席で、長い間にわたって、そうに違いないと考えていたことについて質問を向けたところ、思っていた通りの答えが返って来た。
 ただし心底から驚いたのは、そうしようと言い出した発案者が、マネージャーのアルバートグロスマンだったということだ。メンバーの3人ではなく、エンジニアでもなく、アルバートグロスマンが言い出したとは、この点は全く想像していなかった。
 僕が質問したのは、レコーディング時のメンバー3人の声の配置についてである。
 ピーターがどう答えたのか、ご興味のある方は、レコード・コレクターズ誌2月号をお手に取り下さい。



 インタビューを終えて別れ際に、ピーターから「素敵な男性になりましたね (You've growing up to be a lovely man) 」と言われた。20年ほど前に、一度インタビューしていることを事前に伝えていたからかもしれないけれど、まさか覚えていてくれたとは考えにくい。たぶんこれはピーターなりの僕への謝辞なのだろうと思う。そうと分りながらも、45年余になるファンの僕としては、この言葉に思わず泣きそうになったのだった。(大江田信)

小西康陽プロデュース、大江田信選曲「これからの人生。」

Hi-Fi-Record2013-01-16

ここ数年
ハイファイで5250円以上のお買い上げをいただいたお客さまへの
年末年始のプレゼントとしてご好評をいただいている
CD「これからの人生。」


おかげさまで
今年も多数のお買い上げとご注文をいただき、
そろそろゴールがうっすらと見えてきたところです。


じつは
今回のCDのプレス枚数は
当初は去年までよりもすくない予定になるはずでした。


すでに
ご存じのこととは思いますが
今回は例年の小西康陽さんの選曲とおしゃべりではなく
当店ハイファイの店主、大江田信の選曲とおしゃべりを
小西さんが編集・プロデュースするというスタイルになっています。


そのことに対する
ちょっとした気後れみたいなものが
大江田さんにはあったようなのです。


ですが
結果的には
例年と変わらぬペースで多数のご注文をいただいています。
ありがたい限りです。
お忙しいなか、毎年このお仕事を引き受けていただいている小西さんには
いくら感謝しても足りないくらいです。


CDの内容については
ここで触れることはできませんが
昨日
ハイファイの長い常連のお客様から
こんな話をききました。


 毎日ラジオをつけたらやっている音楽番組みたいで
 すごくよかったです。
 どういう内容のことを話してるかよりも
 大切なのは流れている空気感です。
 毎朝やっているAMの番組を習慣的にきくというのは
 話の内容がおもしろいからきくというより
 むしろ大切なのは全体の空気感なんです。
 今回のCDもぼくはそんな感じできいています。
 くりかえしきいているうちに
 話の内容も
 「あ、こんなことを言っているんだ」と
 だんだんからだになじんでくる。
 そのくらいがいいんです。
 いつ終わったかわからないくらいがいいんです。
 だからまたくりかえすんです。


要約するとこんな感じでしょうか。


そのお話をきいていて
ぼくも「ふうん」と腑に落ちるところがたくさんありました。


特別な体験や非日常のお祭り騒ぎとはすこし距離を置いたところにも
心の動きはちゃんとあって
ささいすぎてそれを心に留めておいたり
言葉にして表現するのは難しいかもしれないけど
なんだか心地良く背中を押されたり
感情を閉じ込めた部屋の鍵を知らず知らずのうちに外されるような感覚があって
気がついたらくりかえしてきいたり読んだりしているもの、
そういうたいせつさのことを思いました。


大江田さんの「これからの人生。」には
確かにそういうところがあります。
そして
ハイファイで大江田さんが長年愛して
じっくりと売り続けてきたレコードの数々にも
そういうものが宿っているのだと思います。


大江田信の「これからの人生。」
まだ未入手のかた、
お早めにどうぞ。


本年もよろしくお願いいたします。(松永良平

Silvetti シルヴェッティ / Spring Rain

Hi-Fi-Record2013-01-10

あけましておめでとうございます。


2013年、いかがお過ごしでしょうか? 今年の耳初めはどんな音楽でしたか?


僕の耳初めはア・トライブ・コールド・クエストとザ・ファーサイドマッシュアップした作品でした。
マッシュアップはもうお腹いっぱい」から一周して、また最近聴くようになって。


マッシュアップを追い続けている訳ではないのですが、いつの間にかその道を極めんと蒐集してしまっている"コレクターあるある"な話、当ブログをご覧の方にはきっとあるはず。


道を極めるといえば、「珈琲道」なる道、この間知って驚いたので紹介したくなりました。


http://www.youtube.com/watch?v=xnWcx0hIj6k


コーヒーに茶筅! 俳優・藤岡弘さんが提唱した「珈琲道」。氏がプロデュースした商品もあるようです。


なにより飲み方にショックを受けたわけですが、「珈琲道」的には、豆に対してどういった考えがあるのでしょうか。


「畑でサバイバルして生き残った豆だね。サバイバルのビーンズですよ。そういった豆を選んでいる。」(氏のブログより)


であれば、下記のニュースで紹介された豆とのコラボは必至かもしれません。


世界一高級なコーヒー1杯2000円(マイナビ・ニュースより)


ジャングルの中(サバイバル中)、ゾウによる天然発酵のコーヒー豆を珈琲道の煎れ方でゴクリ。


Silvetti シルヴェッティ / Two Cups Of Coffee


夢のような体験だけに、夢のような音楽が流れるのだと思うのです。
「Two Cups Of Coffee」コーヒーカップが2つなのは、都会育ちのヒロインと一緒だから。


ソフィティケイトされたディスコ・サウンドの道を究めたアルゼンチン出身のラウンジ・オーケストラ・コンポーザー、ベベウ・シルヴェッティ、エンジニアのトム・モールトン。


コーヒーを飲んだ後に、達観、深いため息が出そうな、そんな組み合わせですね。


今年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。


(藤瀬俊)


Hi-Fi Record Store

The Supremes / The Supremes A’ Go-Go

 The Supremes A’ Go-Go

 シュープリームスは、エド・サリバンが大好きだったグループだ。エド・サリバンとは、ご承知の通り1960年代のアメリカにおいて最も著名なテレビ・ショーのひとつだったエド・サリバン・ショーの司会者である。


 お茶の間にエンターテイメントを紹介する常識ある大人の役割をまかされたエドは、実際にそのとおり保守的な人物だったうえに、まるで石のように無表情で、ウィットに長けている訳でもなく、恥ずかしがり屋で気がきかなかった。カメラのケーブルに足をつまずいては、よくよろめいた。


 1960年代に入る頃には、番組のすべてはエドの手にあった。キャスティングの一切は、エド・サリバンが握っていた。近年になってエド・サリバン・ショーの映像が続々とDVD化されたのも、エド没後に権利を継承していた遺族からフィルムを譲り受けることができたからだ。


 シュープリームスは、エド・サリバン・ショーに15回出演した。ダイアナ・ロスが在籍したシュープリームスの活動期間は、1959年から丸10年。ヒットチャートに登場するようになったのは1963年以降のことなので、年に2〜3回ほども番組出演の機会を得ていたことになる。よっぽどのお気に入りだったのだろう。


 この時すでにエド・サリバンは60歳を超えている。いつもスーツに身を包む、いささか野暮ったい初老のエド・サリバンと、キュートで可愛いシュープリームスという取り合わせ。シュープリームスを聞くたびに思い出すエピソードだ。





 本年もハイファイ・レコード・ストアをご贔屓いただきありがとうございました。


 スタッフが順繰りに毎日更新していた時には、あれほどすんなり書けていたのに、気の向くままに更新しようと再開してみたら、こんなにも更新の頻度が落ちました。なんだか申し訳ない気持ちです。
 といいつつも、このブログ、もう少し続けてみようと思います。ハイファイ・レコードのサイトを訪問いただいたついでにお立ち寄りいただければ幸いです。


 新年もまたハイファイ・レコード・ストアをご愛顧くださいますよう、お願い申し上げます。(大江田信)

Tony Mottola トニー・モトーラ / Holiday Guitars

Hi-Fi-Record2012-12-10

DJをします。


場所は渋谷。
日にちはまさかのクリスマス・イブで。


ハイファイにずいぶん昔からよく来てくれていて
その後、リディム・サウンターというナイスなバンドで活動し、
今またKONCOSというデュオで
すてきな音楽を続けているTA-1くんのお誘いで
彼が月例で続けている「SUNNY」というイベントにおじゃまします。


アナログ・オンリーということなので
ひさしぶりにレコードバッグをちょい重めにして出かけます。


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SUNNY


2012.12.24 Mon at Shibuya HOME


Live : Koncos / Keishi Tanaka
Guest DJ : 松永良平(リズム&ペンシル/ハイファイ・レコード・ストア
DJ : TA-1 / COZZY / SKC / Yuta Sekiyama / TATZ
Food : ブラボーチキン


Open & Start 19:00
Adv 2500yen without 1drink / Door 3000yen without 1drink


KONCOS HP


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しばらくぶりの書き込みが
個人的な告知で申し訳ありませんが、
もしかしてご興味あるかたはぜひ。


いかしたフライヤーも貼付けておきます。



お店では今
トニー・モトーラのギターがあたたかい
最高のクリスマス・アルバムを
きいてます。


松永良平

Hugh Metcalfe ヒュー・メトカーフ / My Guitar Is A Virgin

Hi-Fi-Record2012-11-24

たまにサイエンス・フィクションなニュースを読んで、ワーオと思わず声を出してしまうことがあります。


いつも楽しく読ませてもらっているWIREDの記事。


14歳と31歳の「脳の活動」を音楽化(WIRED)


僕は今32歳なので、この記事にある31歳の「脳の活動」に近いのかも。
被験者の方は僕なんぞと「脳の活動」が似てると言われたら、不服かもしれませんが。


肝心の音のほうはというと、いわゆる実験音楽な感じがしなくて、
「あ、いいかも。」とも思いましたが
「あぁ、そうね。」
「あ〜、いや、なんでもないです。」という僕の"脳の活動"でした。
ただのピアノの即興みたいでノホホンとしたというか、正直拍子抜けしてしまって。


「機能的磁気共鳴画像(fMRI)装置で測定した血流を加えて、音をミキシングした。EEGfMRIを組み合わせることにより、音の高さと強さを別々に作用させられるようになった」


ちょっとなんのことだか初見では理解しかねますが、ESGとfEMI(KUTI)を組み合わせることで実験がうまくいってなによりです。(その組み合わせの音楽って割とあるような(笑))


火星や土星の衛星で聞こえる音を再現(WIRED)


タイタンの"メタンの滝"の音!
字面だけで、胸が高まるではないですか。
音はこちらも残念でしたが、こういう音なんだという認識が得られて少しかしこくなった気分です。
もっとすんごいのを期待していたのですが、メタンも地球上に存在する元素、ですものね。
いやはや、組曲「惑星」なんてものを創造したグスターヴ・ホルストは偉大としかいいようがありません。こっちのほうが最初聴いたときドキッとしましたもん。


Hugh Metcalfe ヒュー・メトカーフ / My Guitar Is A Virgin


邦題は「処女ギター」!(今決めました)


ギター片手に音の波間をぬって処女航海(初陣)。


ビクッとしました。"メタンの滝"なんかよりずっと。


それにしてもなんなのでしょう、このジャケットのイラスト……。


エイリアンでも、もうちょっとマシなはず!


早くこんなエイリアンが地球に遊びにこないかな。


そう、ヒュー・メトカーフは人間じゃありません!(という願望)


いや〜、なんだかんだで人の想像のほうが音楽は面白いな、という話でした(ということで締めたい)。


(藤瀬俊)


Hi-Fi Record Store

Percy Faith and His Orchestra / Themes For The ”In” Crowd

Hi-Fi-Record2012-11-12

 エーリッヒ・ケストナーによる児童文学「エーミールと探偵たち」には、魅力的な食べ物が登場する。エーミールと友人達が犯人の張り込みを続けているところに、お転婆で元気一杯のポニー・ヒュートヒェンが、バターを塗ったパンの差し入れを届ける。岩波少年文庫高橋健二翻訳では、これがバタパンと訳されていた。


 初めて読んだのは、確か10歳頃のこと。読み終えるなり、早速に家にあったパンをトーストしてバターを塗って食べた。
 「エーミールと探偵たち」はドイツ文学なので、もしかするとそれはボクが食べたイギリス・パン的なパンをトーストしたものではなかったのかもしれない。大人の握りこぶし大の茶色いライ麦パンとか、薄くスライスすると美味しい黒パンとか。バタパンとして当てられた訳語から思わずバターを塗ったパンと受け取ってしまうが、バターがより多く塗られ焼かれたパンだったのかもしれない。
 しかしそんなことに10歳のボクは思い当たること無く、バター・トーストを2枚食べた。実に美味しかった。
 それ以来ずっとと言っては大げさだが、トーストにバターを塗り、口に運ぶ際には、胸の奥でバタパンという言葉が響く。


 食べ物のことを文章に記すのは難しいとはよく言われる。しかし言葉で記すからこそ美味しさが伝わるということがあるはずだ。
 言葉によって想像させられた味と、実際の味とが違うことは、充分にあり得ること。だとすればこそぼくは言葉が喚起する味を大切にしたい。実際の味と違っても良い。その幻の味を記憶したいと思う。


 レコードのジャケットと音楽そのものにも、そんな関係が成り立つ時がある。
 アルバムのジャケットには、車に乗る男女の姿。ふたりは電話の受話器を手にしている。
 自動車対象の移動無線電話システムは、1946年にアメリカ、ミズーリ州セントルイスにおけるサウスウエスタン・ベル電話会社による手動式自動車電話が始まり。その後に少しずつ進化を遂げ、1967年には自動交換式自動車電話のサービスが開始された。これが今日の携帯電話のルーツである。アルバムが発売されたのは、1965年。無線電話を持つ男女は、時代の最先端を意味するアイコンだったのだろう。
 だからといって格別に1965年の先端のサウンドとは何かを聞こうと、アルバムに向かい合う必要も無い。楽しげに会話する男女に似合う音楽って、洒落ているんだろうなあと思いながら針を落とすと、その通りの響きが聞こえてくる。ジャケットを眺めてから針を落とす迄の間の想像の時間が、流れ出す音楽への楽しいスパイスになる。(大江田信)