Percy Faith パーシー・フェイス / Swing Low In Hi Fi : Spirituals

Hi-Fi-Record2006-10-14

 このところパーシー・フェイスサウンドの秘密について、考えている。あの透明感、そしてあのおだやかな肌触りは、どういうところから生まれるのだろうと思いながら、彼のプロフィールを読み、そして今世紀に入ってからのオーケストラ音楽の生成と経緯について調べている。


 カナダのトロント生まれ。コンサート・ピアニストを目指しクラシックを学んでいた少年時代、マッチ遊びをしていた妹の洋服に火が燃え移ったのを消そうとして、自身の手に火傷を負い、ピアノを断念。作曲の勉強に進んだ。
 ラジオ・オーケストラの専属編曲家、専属指揮者の地位を得て、急速に知名度を上げ、その後にシカゴに転居。コロムビア・レコードの制作のボス、ミッチ・ミラーの目にとまり、コロムビア専属の編曲家になる。同時期にニューヨークに移り住んでいる。


 それから彼の躍進が始まる。


 と知ると、ポイントは2つあるなと気付く。クラシックの素養、そしてラジオ・オーケストラの仕事を経てきたということ。言い換えれば技法としてのクラシック、ラジオを通して知った大衆の嗜好。この2つだ。


 1950年の時点でストリングス・オーケストラの組織者、指揮者として著名だったのは、アンドレ・コステラネッツモートン・グールド、そしてボストン・ポップスのアーサー・フィードラー。彼らがレパートリーとしていたのは、セミクラシックやブロードウェイ・ナンバー、映画音楽、そしてスタンダード。そしてラジオ出演やコンサートンの定期公演などを活動の場としていた。パーシー・フェイスの先輩達だ。


 こうしたフィールドに、どうやって自身の音楽を投げ込むか。
 それがとてもよく分かるアルバムだろう。ゴスペルを採り上げた選集である。1956年に発表されている。
 清新な才能をほとばしらせていた40年代末の編曲作品に比べるとやや落ち着きが目立つが、それにしてもメロディを巧みな技で豊かに響かせている。人々の胸の奥にそっと深くしまわれているゴスペルの感情を引き出すのに成功している、と言っていい。


 パーシー・フェイスは、メロディを歌わせるのが上手い。あらためて気づく。メロディに込められた溢れそうになる思いを、高々と持ち上げて、その貴さを輝かせる。これはクラシックにおけるシンフォニーの技法だろう。
 メロディを追うことに、ぼく達の気持ちは傾いていく。「Deep River」を聴く。思わず酔わされる。


 ジャズを経てきたアレンジャーはアドリヴとリズムに腐心する。それを思うと、もしかするとこのメロディの処理あたりが彼の技法の特徴なのかも知れないと思う。(大江田)


http://www.hi-fi.gr.jp